カンバン導入における提案書

公開レビュー用

このドキュメントは、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』(日経BP社)の原書『Agile Project Management with Kanban』のダウンロード可能な付録の翻訳です。このドキュメントはレビュー用です。

拝啓

私たちのチームでは、プロジェクトの作業の管理に「カンバン」活用したいと考えています。本提案書では、「カンバン」を選択するにあたっての根拠、変更の必要性、変更に伴うリスクと移行案、そして実行計画について説明します。本提案に対する忌憚のないご意見をいただければ幸いです。また、懸念事項が払拭されましたら、計画の実行についてご検討をお願いいたします。

 

課題

現在、私たちのチームは顧客への価値の提供とは無関係な作業に多くの時間を費やしています。以下に列挙します。

  • 計画と進捗に関する会議が多すぎる
  • 発生から数週間から数ヶ月が経過してから問題に気づくため、分析や修正を行う頃には問題が悪化している
  • 手抜きをしてでも作業が速いことが評価され、不完全な作業や後々高くつくバグや技術的負債につながっている
  • 品質の検証が数週間から数ヶ月行われないため、膨大な量の手戻りが滞積している
  • 要件変更や作業の優先順位が変更されるたびにスケジュールがずれ、会議が増える。中止になった作業に費やした労力が無駄になる

その結果、納期に遅れ、費用がかさむにもかかわらず、プロダクトの機能や品質は低下していきます。この結果を受け入れ続けたのは、常にこの方法で作業してきたからです。現在は、簡素で効果的な解決先が見つかったと考えています。

 

解決策

「カンバン」は、トヨタ社のジャスト イン タイムなスケジュール管理のメカニズムに基づいたプロジェクト管理手法です。「カンバン」を用いてプロジェクト作業を管理することで、すべての時間と労力を顧客への価値の提供に集中されることができると考えています。

  • 「カンバン」では、計画会議は必要なときにだけ実施します。進捗に関する特別な会議はありません。
  • 「カンバン」では、プロジェクトのワークフローを見える化し、問題が発生した日に特定でき、チームメンバーによって直ちに解決させます。
  • 「カンバン」では、手抜きをしたチームメンバーによる未完成の作業を完成した作業として申告できません。
  • 「カンバン」では、ステップごとに明確な品質基準を設けることで品質の向上を図ります。
  • 「カンバン」では、仕掛かり作業を最小限に抑えることにより、埋没費用がほとんどない状態になり、チームが新しい優先順位や要件に適応できるようになり、納期を守れるようになります。

「カンバン」は、特効薬でも、魔法でもありません。あらゆる課題をすべて解決できるわけではありません。「カンバン」によって可能となるのは、プロジェクト管理を簡素化すること。会議やボトルネック、作業のやり直しにとって失われる時間を削減すること。プロダクトの品質管理を改善し、顧客への価値の提供をよりスムーズですばやく、予測しやすいものにすることです。

これは、どんな変更においても言えることですが、「カンバン」に慣れるには数週間を要します。「カンバン」を使いこなすには、数ヶ月を要するでしょう。しかし、マネージャだけでなく、チームメンバー全員がその恩恵を享受することになります。より機能的で高い品質のプロダクトを、コストを抑えた上で、予定どおりに納品できるようになります。

 

リスク

変更にはリスクがつきものです。「カンバン」への変更に伴うリスクと、それらのリスクに対する緩和策は以下のとおりです。

リスク

緩和策

チームが新しい方法に慣れるまでの間は、現在の作業に支障がでることがある

新規のプロジェクトから開始するか、プロジェクトの区切りのよいところで導入することを検討する

一部のチームメンバーが変更に反対することが考えられる

チームリーダーとキーパーソンに2ヶ月間の試験導入を同意してもらう

新しい方法の経験不足から失敗につながる可能性がある

チームメンバー全員を対象に「カンバン」のコーチング、トレーニングや書籍に投資する

最初の数週間の調整期間は、チームの生産性が低下する可能性がある

最初の月は、成果物にたいする期待値を減らしておく

(既存の)進捗や追跡の IT ツールの更新が必要になる場合がある

既存の進捗や追跡の IT ツールに対してプロジェクトマネージャがステータス情報を日々入力できるようにする

依存関係に関する問題や要件の変更が導入の妨げになる可能性がある

「カンバン」はスケジュールの乱れに対応するのを得意としている。依存関係の問題や要件の変更はまたとない実践練習の機会となる

最初の数週間は生産性が低下することが予想されます。これはどのような変更であっても避けられないことです。しかし、その後の生産性の向上により、失われた分をすぐに取り返せるはずです。

 

計画

ここでは、実行計画の概略を4つのフェーズに分けて示します。

フェーズ

作業内容

期間

1

  • チームリーダーやキーパーソンに「カンバン」の要点を伝える(進行中)
  • 2ヶ月間の試用期間について了承を得る
  • 1ヶ月前に導入計画をチームに知らせる
  • 「カンバン」についての書籍やオンラインリソースをチームに提供する
  • 経験豊富なコーチを招聘して初期の質問に答えてもらう
  • 生産性とバグの評価基準を設定しておく

1ヶ月

2

  • チームに対して、「カンバン」のトレーイングをコンサルタントやチームの専門家に行う
  • 作業のバックログを収集して、整理する
  • 顧客への価値の提供のための現在のステップを明文化しておく
  • チームの現場近くの壁に進捗を示すボードを設置する
  • 仕掛かり作業(WIP: Work in Progress)の制限を決める
  • 各ステップの完了基準を設ける

2週間

3

  • デイリー スタンドアップ ミーティングを行う
  • 日ごとにステータス情報を既存の追跡ツールに入力する
  • 生産性とバグの指標を追跡する
  • チームの質問にコンサルタントやチームの専門家に答えてもらう
  • 必要に応じて WIP 制限と完了基準を調整する
  • この期間は、成果物に対する期待値を減らしておく

1ヶ月

4

  • デイリー スタンドアップ ミーティングを行う
  • 日ごとにステータス情報を既存の追跡ツールに入力する
  • 生産性とバグの指標を追跡する
  • チームのパフォーマンス改善を讃える

継続

各フェーズは、1つ前のフェーズの成功を条件としています。各フェーズが成功したかどうかは、各フェーズの作業の完了とチームの継続的な取り組みによって判断されます。全体的な成功は、最初のフェーズで設定した生産性とバグの基準値と照らし合わせて、生産性とバグの指標がどれくらい改善したかによって判断されます。

本提案に対する忌憚のないご意見をいただければ幸いです。また、懸念事項が払拭されましたら、計画の実行についてご検討をお願いいたします。

敬具

顧客に提供する価値を最大化することに情熱を注ぐチーム一同